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「モビールとは何か?」についての、ささやかな解説です。
モビールとは、天秤(てんびん)のような形を組み合わせた飾り物の一種です。ある天秤形が別の天秤形を “重り” として吊り下げているような構造になっているのが大きな特徴です。空気の流れによって様々な部分が揺れ動いたり水平に回転したりしますが、全体として常に釣り合いを保つように作られています。もともとは1933年頃に彫刻家アレクサンダー・カルダーが創始した現代美術の様式でしたが、すぐに家庭の装飾品として広まりました。通常、部屋の天井から糸で吊り下げて飾ります。
上の三つは、どれもモビールとしての形式を十分に備えています。左にあるハリネズミのモビールは、基本の形をしているとも言える典型例です。水平な天秤構造が三重に組み合わさっていて、それぞれの天秤棒の両端にぶら下がっている紙片や他の天秤は、いわば「重り」に相当します。一般にこのような弓形の針金など、細くて安定しやすいものが天秤棒として使われます。
真ん中の魚のモビールでは、天秤棒に相当する部分が膨らみを持っているうえ、その両端以外の箇所から糸が垂れています。それでも、天秤の形状であることには変わりません。中段の二匹に注目してください。それぞれ下段の魚を取り除いたらバランスを崩しうることから、重りが一つだけの変則的な天秤として機能しているのが分かります。この作品は、天秤が二層に積み重なっている点で、モビールの基準にきちんと適っているのです。
右端のカラフルな作品はモビールの発展形です。幾重にも連なった羽根状の板は、いずれも片側のみに重りを付けた天秤と見なすことができます。糸の代わりに金具でつなぎ合わせ、あえて傾けて芸術性を加味しつつも、モビールの様式を完璧に維持しています。
このように、天秤形が別の天秤形を吊るすことで釣り合いを取っているのがモビールの特性ですが、この条件を満たしていなくても、類似した形態を持つ飾り物もまた、広い意味で「モビール」と呼び慣わされています。下の三つはその実例です。
左端の例では、上段の天秤のバランスに対して、下段の天秤の存在は何ら影響を及ぼしておらず、したがって重りの役割を果たしていません。そういう点ではカルダーが発明したモビールの仕組みと異なるものの、見かけは似通っており、差し障りなくモビールの一種と言えます。
次の例では、複数の天秤が中央の一点で交差しています。天秤が天秤を吊るしているわけではないため、本来の形式としては不十分ですが、それでも天秤構造を持つ以上、モビールの部類に入れてもおかしくありません。ところで、ここに見られる立体的な天秤形は、古い伝統工芸の系譜を引いています。かつて北欧などで作られた「吊るし飾り」には、紙細工の四方の端がそれぞれ小さな紙細工を吊るし、その各端に飾りが吊るされたものもあったようです。天秤の概念を拡張するなら、北欧にはカルダー以前からモビールが存在したことになります。
最後の例は、モビールの前駆とされる20世紀初期の彫刻作品によく似ています。天秤形態を持っているとは言い難いものの、モビールの語義でもある「動き」の要素はしっかり備わっています。こういった、糸で上下につなげた飾り物や、あるいは単に糸で吊るしただけの単体のオーナメントなども、厳密にはモビールの範疇から外れるところですが、便宜上、モビールと称することがあります。
以上見てきたように、モビールには、天秤が天秤を吊るす形をした正統的なものと、糸で吊るす飾り物全般にまで範囲を広げたものとがあります。前者の場合、どちらかと言うと、左右非対称に天秤を配置した構成が多く見られます。それは、不均整な姿がもたらす変化の面白さにこそ、モビールの主眼があるからでしょう。反対に後者では、中心軸がはっきりしているためか、安定感のある左右対称の作りが主流をなしています。これら二つの意味のほかにも、台に支えられ、回転する部分を持った置き物のことを「モビール」と呼ぶ場合があります。こちらのほうが元来の言葉づかいに近いのですが、当サイトでは、この第三の意味でのモビールは扱いません。
もっとも、こうした分類はひとつの見解にすぎず、モビールの公的な定義付けや規格はないので、人それぞれの “モビール” があってもよいはずです。インテリア雑貨に限らず、熱気球でさえ、空中でゆらゆら揺れながらバランスを保っている点ではモビールの仲間かも知れません。あなただけのモビールを見つけてみてください。
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「モビール」という日本語は、国語辞典にも載っている普通名詞であり、原語のフランス語に由来する言い方です。英語の場合、イギリス発音では「モバイル」と言い、アメリカ発音ではフランス風に「モビール」と言います。よく米音の「モービル」と混同されがちですが、それだと移動式の意または石油会社になってしまいます。参考までに、元の発音に近い表記と、それに基づく標準的なカタカナ表記を右にまとめてみました。
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発音表記 |
標準表記 |
| 仏語 |
モビ(ー)ル |
モビール |
| 英音 |
モウバイル |
モバイル |
| 米音 |
モウビール |
モビール |
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モビールを飾るときは、次の方法を参考に、いくつかの場所で試してみてください。
- 空気の流れのあるところに飾ってください。ゆっくりと静かに動くようにするのがポイントです。風の強い場所や屋外には不向きです。
- なるべく淡い単色を背景にしてください。薄い壁色のお部屋のコーナーは理想的です。
- できれば明かりに照らされるようにしてください。壁や天井に影ができると、新たな次元が広がります。ろうそくを光源にすると、鮮明ではっきりとした影ができます。
- 音楽の流れる場所に飾るのをおすすめします。音楽にあわせてモビールが動くのをご覧になれます。
- 幼児の手の届かないところにお飾りください。モビールは玩具ではなく、目で見て楽しむインテリアです。
- 直射日光を避けてください。色あせ・変形の原因となることがあります。
- モビールの重さに十分耐えうる場所に、しっかりと取り付けてください。落下した場合、けが・破損の原因となることがあります。
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- 写真のような金具(洋灯吊り)を天井にねじ込み、そこに吊るすのが最も安全ですが、軽量なモビールであれば、ピンやガムテープでとめたり照明器具にぶら下げることも可能です。
- 万一の落下に備え、就寝場所の真上には決してモビールを飾らないでください。就寝場所の斜め上に吊るすなど、真上を避けて設置するようにお願い致します。
- モビールを取り付ける際は、糸に傷みのないことを確認してください。飾った後も、長期使用による糸の擦り切れを防ぐため、定期的な点検をおすすめします。
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■ 糸が絡んでしまったら・・・
モビールはとてもデリケートなため、慎重に取り扱う必要があります。不幸にも糸が複雑に絡まってしまうと、ほどくのは意外に大変です。そんなときはどうしたらよいのでしょうか?
モビールを吊るしたままですと動いてしまうため、広いテーブルの上に寝かせます。絡まっていない糸の上に物をのせて固定し、それ以上絡まらないようにします。そして、モビールの下の方から順にほどいてゆきます。固い結び目ができていたら、針の先を使って緩めます。根気よくやっていれば、最後には必ずほどけますよ!
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モビールを手作りする際の、ごく初歩的なポイントをご紹介します。
モビールを手作りするうえで、何かひとつの決まった作り方があるわけではありません。というのも、素材によってモビールの作り方は大きく異なるからです。針金と厚紙で作るのか、フェルトを使うのか、あるいは木材だけを用いるのか、金属を加工するのか、などによって作り方は千差万別です。工作に関することがらは市販の書籍に譲るとして、ここでは、どのような素材のモビールであっても変わらない、モビールの基本原理についてお伝えします。
それは小中学校で習う「てこの原理」の応用です。モビールを設計するにあたり、これを踏まえておくと便利です。公式や数式はなくても大丈夫ですので、物理が苦手な方もご安心を。
モビールは複数の天秤構造を組み合わせて作りますが、まずは個々の天秤構造に目を向けてみましょう。ある天秤が均衡を保つにはどうしたらよいかを検討してみます。もし右側に重い物がぶら下がっていたら、天秤は右側に傾いてしまうはずです。しかし、天秤を吊るす糸の結び目の位置、すなわち「支点」に相当する位置を、右方向へ適度に動かしてあげると、天秤を平衡にすることができます。
ここには法則性が見られます。天秤が水平になっているとき、天秤の片側が重ければ重いほど、支点の位置はその重い方に寄っています。逆に天秤の一方が軽ければ、それだけ支点の位置はその軽い側から遠ざかっていることになります。どういうことかと言うと、「支点から遠いところに物を吊るすと、より大きな力が得られる」という「てこの原理」が働くため、支点を境に左右の釣り合いを取るには、天秤棒の長い方に軽い物が来る必要があるのです。
この原則は、天秤構造が何段に重なろうとも通用します。どの天秤でも、左右それぞれの端から下に連なっている物体すべての総重量によって、支点の場所が決まります。もちろん天秤の両端以外に物を吊り下げたり、天秤棒そのものに重さのかたよりがあったりすれば話は別ですが、原則としては、左右の端にかかる重さの比によって、支点から端までの距離が定まります。これらを踏まえて、左右のバランスを取るように物を配置して、下の段から順にひとつひとつ天秤構造を作っていきます。
実際に組み立てる過程で、モビールがどのように回転してもぶつからないように、糸や天秤棒の長さを変える場合が出てくるかも知れません。糸のように軽いものでも少しはバランスに影響しますし、支点が1ミリずれただけで傾くこともあります。なかなか初めに思い浮かべたとおりにはうまく出来ないものです。微調整を繰り返しながら、試行錯誤しつつ、モビールの手作りを楽しんでみてください。
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■ モビール作りの “指南書”
モビールの作り方の本に関しては、手ごろな良書が次々と出版されており、実物大の型紙付きのものを含め、本屋さんの棚に何冊か並んでいます。
でも、もし大きな図書館へ行く機会がありましたら、ぜひ品川工著 『新しいモビール ― 動く造形』(1971年)を探してみてください。かなり古い出版物ですが、もはやこれを凌駕する類書は出ないのでは?と思わせるくらい充実した内容の大著です。モビールの創始者カルダーの作品群を彷彿とさせる、芸術的なモビールの作り方がたくさん載っていて、眺めるだけでも楽しいです。
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「彫刻は動かないもの」という固定概念をくつがえしたのが、“動く彫刻” モビールでした。 そんなモビールの誕生にまつわる歴史を探ってみます。
モビールの祖先としては、風車・水車・水時計・風見鶏といった動く機具類を考えることができます。しかし、モビールは何らかの機能や実用のために作り出されたのではなく、彫刻の新分野として創案された芸術作品でした。
20世紀になって、キネティック・アートという新しい美術概念が現れました。これは、作品に動きを与えることで空間と時間の双方による表現を目指したものでした。ロシアの彫刻家N・ガボによるモーターを使った彫刻(1910年)は、この分野で最初の作品です。
のちにモビールの名付け親となるマルセル・デュシャンは、このキネティック・アートの創成期に大きな足跡を残した人物でした。1913年にパリで発表された『自転車の車輪』は、手で回せるようになっていました。また別の作品は、指で押したり息を吹きかければ動く仕組みになっていました。
キネティック・アートの概念は、ロシアの画家A・ロドチェンコによってさらに発展します。彼は『吊るされた楕円形構築物No.12』(1920年頃)において、宙吊りになった同心円状の木製の輪を用いて、自然の力で動きうる彫刻を試みました。また、同時期にダダイズムの芸術家たちも “動く彫刻” の発展に寄与しています。たとえばM・レイの『障害物』(1920年)は、ハンガーの端に二個のハンガーをぶら下げるという手法を繰り返して、部屋中をピラミッド形で埋め尽くしたものでした。一つが動くと、連動して全体が揺れ動くようになっていました。
こうした流れの中でモビールを生み出したのが、アメリカの彫刻家アレクサンダー・カルダー(コールダー)です。カルダーは1898年、彫刻家の父と画家の母の間に、ペンシルバニア州で生れました。幼い頃から工作が大好きだったといい、工科学校を経たのち、ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグに学びました。1926年にパリへ渡り、針金・ブリキ・木などを素材に、動物やピエロを模した『カルダーのサーカス』を制作します。1930年に訪れたP・C・モンドリアンのアトリエでは、その抽象絵画を目にして大きな衝撃を受け、これ以降、非具象的な造形へと向かいます。
カルダーが目指したのは、抽象美術に動きをもたらすことでした。1932年、彼はパリのヴィニョン画廊で、モーターで動く作品群を発表しました。「モビール」という名称は、これらの新彫刻を呼ぶためにデュシャンが提案したもので、「動き」と「動機」という二重の意味を持つフランス語です。次にカルダーは、針金とブリキを用いて、機械仕掛けではなく空気の流れに応じて動く作品を創作します。以来、この形式のものが、一般に「モビール」と称されるようになりました。形態の変化にも着目した彼は、動きに対照性を持たせ、構成物の間に様々な位置関係が生じるようなモビールを数多く作りました。有機的で単純な構造、色彩豊かで軽妙な表現、それがカルダー作品の特徴でした。
モビールは、その誕生の当初より、正真正銘の芸術形式として美術界から認められるとともに、家庭や職場における装飾、商品のディスプレー方法、乳幼児への視覚的刺激として、世間一般にも急速に普及しました。社会の共感を得ることの少ない現代美術の中で、モビールだけがこのような広まりを見せたのは、カルダーが好んだサーカスのような、見世物的な楽しさや曲芸的なスリルがあったからではないか、という見方もあります。
[出典: 海外の百科事典など]
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コラム : 「モビール」という名前
もともとモビールという言葉は、現在の形と異なる美術様式に付けられた名前でした。
フランスの美術家マルセル・デュシャンは、友人のアレクサンダー・カルダーが考案した “動く彫刻” を、公開前年の1931年に「モビール」と命名しました。しかし、ここで言うモビールとは、モーターで動く機械仕掛けの彫刻のことで、台によって下から支えられたものでした。
のちにカルダーが、糸と針金で天井から吊り下げる形式の、空気の力で自然に動く彫刻を考え出してから、それが一般に「モビール」と呼ばれるようになり、そのまま定着したのです。
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